オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『フェノミナ インテグラルハード完全版』

Phenomena, 115min

監督:ダリオ・アルジェント 出演:ジェニファー・コネリー、ダリア・ニコロディ

★★★

概要

蛆が湧き蝿が飛び人が刺される話。

短評

ホラー映画という枠があるのでストーリーについていけるが、ダリオ・アルジェントという監督に物語を求めるのは(今更だが)やめにしよう。もしかすると深い意図があるのかもしれないが、ホドロフスキーと同じ様に頭の中に浮かんだイメージを映像として実現するのが彼の映画の本質と考えた方が頭を悩ませずに済む。一つ一つのモチーフには意味が込められているのだろうが、少なくとも物語としての整合性といったものを考えてはいけない。

感想

虫である。蛆である。蝿である。もうこれだけで苦手な人は離脱するモチーフである。本人の(あるのかないのか分からない)深い意図とは裏腹に(あるいは思惑通りに)不快感が全力である。三十郎氏は虫が苦手なので、骨になった生首に蛆が湧いている序盤のシーンだけで「ウゲェ~」と顔を歪めてしまう。ジェニファー(ジェニファー・コネリー)の手に蛆がついているだけでギョッとしてしまう。この映画を観るのに向いていないが、ある意味では向いている。窓に押し寄せる蝿も、蛆の海も、蝿に包まれる奇形の子供も全てが怖ろしい。

アルジェントは何かを突き刺すという行為に取り憑かれている。わざわざ編み針が毛糸に刺さるシーンまで挿入してみるほどに、そのこだわりは尋常ではない。特に少女を突き刺すという行為には並々ならぬ執拗さが見られ、おっさんが腹を刺されるシーンを適当に流してしまうのとは対象的である(流れる血も服に赤い染みが出来る程度の軽い扱い)。突き刺される少女はと言えば、大声で叫びながら逃げ回った末に、ハサミで刺殺され生首を急流に放り込まれたり、後ろからヤリで突き刺されて口から凶器が出てきたりと「どんなショッキングな殺し方をしてやろうか」と喜んでいる監督のフェティシズムが滲み出ている。

上記二つの生理的嫌悪と暴力性を織り合わせて、本作は不思議な感覚を覚えさせる。その中心にいるのがキャリア初期の“もうロリコンでもいいや”レベルの美少女ジェニファー・コネリーなのだから更に不思議である。気持ち悪さと美しさの相克である。これらの相反する要素が互いに邪魔することなく魅力を引き出し合っているのが本作の良さであり、アルジェント一流のバランス感覚だろうか。バランスなんて考えずに好き勝手やってると思うのだが、不思議と良い落とし所に収まっているような気にさせられる。混沌こそが絶妙な秩序なのである。

色々とツッコミどころのある映画だが、一番は鉄板の切れ味か。それともゴミ箱に普通に捨てられている剃刀か。

インテグラルハード完全版は、ハードを無視すれば完全な完全版のトートロジーだろうか。最初は「積分激烈完全版ってどういう意味だよ」と戸惑った(ちょっと意味不明なB級映画感があって格好いいとは思う)。