オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ウインド・リバー』

Wind River, 107min

監督:テイラー・シェリダン 出演:ジェレミー・レナーエリザベス・オルセン

★★★★

概要

雪原で見つかった死体の真相を追う話。

短評

とても重苦しくて何とも言えない気持ちになる映画である。家畜を殺したピューマ(英語だとLionらしい)を追うハンターのコリー(ジェレミー・レナー)が、ネイティブ・アメリカンウインド・リバー保留地で女の遺体を発見し、捜査にやって来たFBIのジェーン(エリザベス・オルセン)に協力するというのが大まかなあらすじ。事件を追うミステリーの要所要所で、厳しい自然環境や保留地の厄介な制度が顔を覗かせる。映画の最後に驚愕の事実は待っていないが、それが普通に起きている現実には驚くべきか。それとも無知を恥じるべきか。

感想

ウインド・リバー保留地の環境は自然も経済も厳しい。被害者ナタリー(ケルシー・アスビル)の直接の死因は、冷たい空気を吸って凍った肺が破裂し窒息したというものである。監察医のこの所見では“他殺”にならず、FBIの専門家たちを呼ぶことができない。保留地では自治権を盾に様々な犯罪行為が行われているイメージがあったが、広大な敷地に対して数の少ないインディアン管理局では手が回らず、重大事件でなければFBIもやって来ない、連邦政府の監督下にあるので地元警察は手出しできないという複雑な事情が存在するらしい。更に、僅かな年金で何の希望もなく酒や薬に溺れて暮らす者たちは、刑務所に入った方がマシな暮らしができるという虚しい現実まである。

コリーの元妻ウィルマ(ジュリア・ジョーンズ)との関係の見せ方が上手かった。彼女の家に息子を迎えに行くシーンで既に離婚していることが分かり、室内に飾られている娘の写真を映すことで、娘が死んでいることや、それが離婚の原因となったことが察せられる。不仲ではないがわだかまりのある感じが暗い過去を感じさせる。一方で、ネイティブ・アメリカン社会に受け入れられてる白人男性をヒーロー化した意義は何なのだろうか。ジェレミー・レナーの演技は素晴らしかったが、白人にもこの映画を見てもらうためという大義名分を持った興行的理由に思えなくもない。ネイティブ・アメリカン社会に無知だったが徐々に成長していくジェーンと違い、一種の部外者であることの意味が今ひとつ見出だせなかった。

酔っ払った馬鹿な白人が調子に乗ってレイプしたという真相は、それまでのネイティブ・アメリカンを巡る事情とは無関係に近く、若干拍子抜けするところがあるものの、この馬鹿白人の言い訳からは別の側面が見えてくる。「ここには女もいない!何の楽しみもない!雪しかない!」という彼の主張は、犯行の理由として全く同情の余地がない自分勝手なものである。しかし、それは事実である。そんなクソみたいな土地がネイティブ・アメリカンの保留地なのである。アメリカの征服者たちが原住民を追いやった土地の過酷さは既に見てきた通りである。

事件を捜査するミステリーという形式を採る以上は仕方のない面もあるが、犯行の現場となった掘削所についてもう少し説明がほしかった。そこもまた連邦政府から治外法権的な扱いを受けているらしく、警備員たちは警察権を有さない地元警察へ銃口を向ける。連邦政府管轄のFBIジェーンに権限があることだけは分かるが、警備員が地元警察を撃った場合、それは合法行為なのだろうか。

二度ある銃撃戦はいずれもスリリングである。二度目の方は、真相解明編(回想)の後に続くものなのだが、回想への導入が上手く(現在の話だと思ったら過去の話だったという定番の演出に上手く騙された。以前よりこの演出の初出が気になっている)、またその直前に銃撃戦を回避していることもあり、そこに至るまでの十分な予感や緊張感を感じさせるものとなっている。

監督・脚本のテイラー・シェリダンは、『ボーダーライン』や『最後の追跡』の脚本を手掛けた人である。アメリカの暗部を背景に用いてズシンと来るようなスリラーやドラマを作る人らしい。これは三十郎氏好みである。名前を覚えておこう。

ウインド・リバー(字幕版)

ウインド・リバー(字幕版)