オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『逃走迷路』

Saboteur, 108min

監督:アルフレッド・ヒッチコック 出演:ロバート・カミングス、プリシラ・レイン

★★★

概要

飛行機工場炎上事故の犯人に間違われた男の話。

短評

ヒッチコックお得意の巻き込まれ型サスペンスである。物語の中核となる破壊工作やテロ組織はマクガフィン的なもので全体として面白いストーリーになっているとは言い難く、ダムの件なんて投げっぱなしである。しかし、至るところに小さなものから大きなものまでスリルが仕掛けられているので最初から最後まで手に汗握る。ちょっと強引なラストシーンやロマンスも、好意的に受け取ればヒッチコックらしさである。

あらすじ

飛行機工場で働くバリー・ケイン(ロバート・カミングス)が、火事を消火しようとして同僚に渡した消化器の中にはガソリンが詰められており、彼は事件の容疑者に。警察の捜査から逃れたケインは、自分に消化器を渡したフライという男こそが真犯人であると睨み、フライを探しはじめたことから巨大な陰謀に巻き込まれていく。濡れ衣を着せられた男が真犯人を探すという展開はヒッチコックの真骨頂と言える。

感想

ケインの逃走の成否は、彼本人の機転よりも他者の行為に委ねられている点が多い。彼が手錠を隠そうと四苦八苦していたら相手は盲目で、それに一安心したら実は音でとっくに気付かれていたという展開が面白い。緊張感はちゃんとあるシーンなのに、それだけではない射程もある。

OPクレジットの忍び寄る影、橋から川に飛び込んでの逃亡、劇場で映画の銃撃音に合わせて繰り広げられる銃撃戦、本の背表紙を指し示して送るメッセージと印象的なシーンが多いが、思いついたアイディアを色々と詰め込んでみたという印象である。

本作の最大の見どころは自由の女神でのケインとフライの攻防だと思うのだが、悪役のフライが落ちそうになってケインがそれを支えるというのは構図的に失敗ではないか。観客は悪役なんて落ちてしまえばいいと思っているはずなのだから。スーツの縫い目が解けていく描写がハラハラするものなだけにもったいない気がする。一応ケインにとっては自らの疑いを晴らすためにフライが落ちると困るという事情があるが、フライが落ちてそのまま映画が終わるのはどうも消化不良である。

原題の“Saboteur”は、英語の“Sabotage”と似たような意味を持つフランス語である。ヒッチコックはイギリス時代に『サボタージュ(原題:Sabotage)』という映画を製作しており、本作とちょっと紛らわしい。内容は別ものである。本作の『逃走迷路』という邦題の意味はよく分からないが響きは素晴らしい。

海外特派員』でも似たようなことがあったが、この時代のヒッチコック映画にはプロパガンダ的な面がある。やはり戦時中にアメリカへ逃げたことに対して負い目があったのだろうか。本作は対破壊工作というモチーフそのものもプロパガンダ的だが、サーカスの一団がケインを匿うか否かをきめるシーンでも民主主義が取り上げられている。そのクライマックスの舞台が自由の女神というのはなんとも洒落ている。