オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『クリード 炎の宿敵』

Creed II, 129min

監督:スティーヴン・ケイプル・Jr 出演:マイケル・B・ジョーダンシルヴェスター・スタローン

★★★

概要

アポロの息子とドラゴの息子が戦う話。

短評

誰もが知る名シリーズを見事にリブートした前作『クリード チャンプを継ぐ男』。その続編としては最も魅力的な素材を無難で凡庸な映画として消化してしまった感じである。王道から少しも外れることがないので普通に面白いのだが、前作の完成度と本作の題材から期待されるものには届かなかった印象である。

感想

ボクシング映画の演出にスローモーションを導入したのがスコセッシなのかどうかは知らないが、ボクシングの試合の演出はおおよそ『レイジング・ブル』の時には完成していた気がする。フンッフンッと殴り合う通常のシーンに加え、飛び散る汗や血飛沫、そして殴られて歪む顔といった重要なシーンをスローモーションで捉えれば、現実の試合を超える迫力の映像が完成する(パンチのフレームレートを調整してスピードを出したのはいつからだろう)。従って、いつの時代も新たにボクシング映画が製作される理由は迫力ある試合を見せるためではない。リングに上がるまでのドラマこそが本編なのである。

そこで本作のストーリーである。念願のベルトを手にしたクリードマイケル・B・ジョーダン)の前に、かつてリングで父を殺した大ドラゴ(ドルフ・ラングレン)とその息子小ドラゴが立ちはだかる。クリードは小ドラゴの失格で王座を防衛するものの、試合内容は完敗で打ちのめされる(ボクサーにとっては最も屈辱的らしいボディ攻撃の痛みに耐え切れず膝をつく)。ロッキー(シルベスター・スタローン)の離脱と再合流というお決まりの要素を交えつつ、再戦で勝利するという展開は一ミリたりとも王道から逸れることはない。

本作にユニークな点があるとすれば、クリードと恋人のビアンカテッサ・トンプソン)との間に娘が生まれることだろう。少ドラゴに瀕死レベルでボコボコにされた。娘が生まれた。そこでクリードはもう一度リングに立つべきか問われるわけである。もう一度立たなければ映画にならないので立つのだが、恐らくそこには「娘を自分と同じ父無し子にしてしまうかもしれない」といった葛藤があるはずである。クリードが悩んでいる時間が長い割に、その辺りのドラゴ戦特有の要素が上手く描かれず、「俺はボクサーなんだ」的に消化されてしまったのは少々残念。

もう一つ惜しかったのは、小ドラゴの描写が少なかったことである。肉体労働をしながら薄暗い会場で戦果を上げてきた彼は、母に捨てられ、父に代理戦争の道具として育てられ、勝利に喜ぶ様子も見せないという陰のあるキャラクターである。恵まれた環境で育ち、王者になって調子に乗るクリードよりもこちらに頑張ってほしいくらいである。主人公に感情移入させるような描写は確かに王道なのだが、この小ドラゴという男をもっと正面から描いていれば、特別な戦いがより特別なものになったのではないか。ところどころ挿入される彼のドラマがかなり印象的なだけに、もっと見てみたいという気持ちが強い。

ボクシング映画におけるもう一つのリングの外の魅力はトレーニングである。三十郎氏は『ロッキー』の試合シーンよりも、生卵を一気飲みしたり、鶏を追い掛けたり、食肉を殴ったり、フィラデルフィア美術館前の階段を駆け上がってガッツポーズする姿の方が印象に残っている。本作では、ロッキーが離脱して最新設備でトレーニングするクリードの姿(プールで水中シャドー)の方が、肝心のロッキーとの荒野でのトレーニングよりも新鮮というのは少し本末転倒である。クリードが走る姿は美しかったが、トレーニング内容にはもう少し工夫が欲しかった。

アポロの息子を主人公とする物語としては最高のネタを使ってしまったわけだが、今後さらなる続編が製作されることはあるのだろうか。ここで止めておけばよいとは思うが、マンネリ相手にでも決して屈することなく何度でも立ち上げるのがロッキー・シリーズである。

クリード 炎の宿敵(字幕版)