オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ザ・シークレットマン』

Mark Felt: The Man Who Brought Down the White House, 102min

監督:ピーター・ランデズマン 出演:リーアム・ニーソンダイアン・レイン

★★★

概要

ディープ・スロートの正体。

短評

ディープ・スロートという単語に桃色な想像を巡らせた人がいたら申し訳ない。本作のディープ・スロートはリンダ・ラヴレースが同名映画で披露したとされるディープなお仕事とは異なる(どうしてもそちらが気になるという人はアマンダ・セイフライド主演の『ラヴレース』をどうぞ)。『大統領の陰謀』に登場する謎の情報提供者の正体が、当時のFBI副長官マーク・フェルトでしたという話である。

感想

映画的な繋がりを紹介すると、『ペンタゴン・ペーパーズ』のラストで描かれる民主党本部への侵入がウォーターゲート事件で、その真相をワシントン・ポスト紙の二人のジャーナリストが追ったのが『大統領の陰謀』、そのジャーナリストに内部情報を提供して報道させたのが本作のマーク・フェルトリーアム・ニーソン)ということになる。この三作を観れば、現在もなにかと〇〇ゲート事件と名付けられる元ネタとなったウォーターゲート事件についての概要が掴める(何でもかんでも〇〇ゲートとつけるのはフジテレビの女子アナに〇〇パンと愛称をつけるみたいで工夫がないと思う。マスコミへの信頼やその威光が高まった事件への懐古主義すら感じさせる)。そして「ニクソンって奴はとんでもない野郎だな」と思うことになる。

大統領の陰謀』では超重要人物でありながら謎の人物であったディープ・スロートの正体が分かり、その行動や背景が見られるのが面白かった。政治スリラーとしても小難しくなりすぎず、ウォーターゲート事件のお勉強映画をちゃんとエンタメとして成立させている。

このマーク・フェルトという人物を英雄的に描くことの是非については疑問を感じた。彼の密告がなければウォーターゲート事件の真相が闇に葬られたのかもしれないが、あのJ・エドガー・フーヴァーを長年に渡り支えてきた男にそれだけで好印象を抱くのは難しい。劇中にも彼がフーヴァー的な指示を出すシーンがあったり、密告にも自分が後任の長官になれなかったことへの復讐的な意味合いがあったりと単純な英雄ではないことが分かるが、全体的には彼に感情移入させるような構成になっているように思う。

どこまで実話なのか分からないが、彼に反発した娘がヒッピー化して行方不明になっているエピソードを挿入して、彼の背負った業の深さに感情移入させる必要はなかったのではないか(それも感動的な和解のおまけ付きである)。あくまでウォーターゲート事件解決の裏側だけにフォーカスすればよかったのではないか。また、彼はウォーターゲート事件とは別件で有罪になった事件で恩赦を受けており、それが良いエピソードのように紹介されるのも気に食わない。

しかしながら、フェルトがメディアへ情報をリークせざるを得なかった背景を考えると、フーヴァーの功罪の功の部分が見えて評価が難しい。彼がその圧倒的な情報量を背景に権力を濫用したことは許されるべきではないが、それ故に政府が手出しできないほどの独立性を誇っていた。彼の死により長官代理に就任した忖度の塊であるグレイと比較すれば、捜査機関と権力との関係の難しさを考えさせられる。現在の政治情勢を考えれば、そのバランスの難しさは改めて言うまでもない。フーヴァーの訃報を聞いたフェルトたちが急いで機密資料を処分するシーンは少し笑える。

このタイトルとパッケージだと、リーアム・ニーソンが最強のおっさんとして暴れ回る映画に見える。特に、劇場版のポスターでは少ししか無かったらしい炎を大量に描き加えるのはやり過ぎである(そもそもアメリカ版はもっと大人しい別のデザイン)。自宅で油絵を描いていた彼が筆を持ったまま車に乗り込んだシーンでは、ジョン・ウィック的に筆で人を殺すテクニックを披露するのではないかと邪な期待をしてしまった。

ザ・シークレットマン(字幕版)