オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『アド・アストラ』

Ad Astra, 123min

監督:ジェームズ・グレイ 出演:ブラッド・ピットトミー・リー・ジョーンズ

★★★★

概要

海王星周辺で行方不明になった父を探しに行く話。

短評

批評家絶賛・一般客微妙という前評判だったので、観念的で難解な映画のなのかとビビりながら観に行ったが、意外にもすんなりと受け入れられる内容だった(難解な部分が三十郎氏に認識されず頭を素通りしているだけとも言える)。美しい宇宙の映像と共に描かれる文芸ものといった趣である。それが逆に物足りなく感じるかもしれないが、三十郎氏レベルの知能だと丁度よいバランスである。三十郎氏は宇宙のロマンが好きなので、宇宙的な映像を眺めているだけでうっとり幸せである。そのことが逆説的に本作のメッセージを突きつけてくる結果となった。

感想

終わってみれば、序盤の月面マッドマックスがどういう話なのかを端的に示唆していたと言えるだろう。『怒りのデスロード』よろしく行って帰ってくるだけの話である。この宇宙のどこかに人類以外の知的生命体がいるという妄念に取り憑かれた父クリフォード(トミー・リー・ジョーンズ)と同じく、ロイ(ブラッド・ピット)は父という幻影に取り憑かれて海王星まで旅をした。二人ともありもしないものを追い掛けて宇宙の果てを目指したのである。一人はその幻想に飲み込まれ、一人はその幻想に別れを告げて地球へ戻る。宇宙の物語と見せかけて、父と子の物語と見せかけて、ロイ個人の物語なのである。

結果的に、宇宙の果てには何もありはしない。だからこそ“余計なもの”と切り捨ててきた自分の足元を大切にしよう、見つめ直そうという単純な教訓を得るために彼は旅したことになる。これは、元より宇宙の果てに何も期待していない者と宇宙の果てには何かがあると強く信じる者の方にとって不満に感じられるかもしれない。しかし、三十郎氏にように常日頃から「遠くへ行きたい」と漠然とした“遠く”への憧れを抱く者にとっては、『パターソン』のような感動が得られた。ロイは最初と最期の心理テストで同じような回答をしているのに、その意味は大きく異なる(最初のシーンでは反射を利用したボヤけた映像だったが、最後のシーンはくっきりと映っている演出が良かった)。そこに胸を打たれるのである。宇宙の果てには何もなかったが、“何もないということ”を見つけて帰ってくる行為そのものに意味がある。

何かがあると期待して目指した先に何もないとき、そこに映し出されるのは自分自身である。西部劇や『闇の奥』で繰り広げられきた未知なるフロンティアへの挑戦を、本作は宇宙の規模で描き出した。人は、西部、アフリカ、宇宙とその活動領域を無限に広げようと挑戦し続けるが、それはいつだって現実からの逃避であり、自己との対話なのである。

冒頭、CGで描いているであろう太陽の映像に実際に撮影しているかのようなフレアやゴーストが映り込むことから、かなり気合の入ったリアルな映像が期待できることが窺われる。それもそのはず。撮影監督はクリストファー・ノーラン御用達のホイテ・ヴァン・ホイテマである。『007 スペクター』で長回しを見せたり、本作では宇宙が舞台と、少しエマニュエル・ルベツキの後を追い掛けている感が否めないが、彼にもいい加減オスカーをあげればよいのではないかと思う。今年の他の有力候補は誰だろう。

高所恐怖症の人が気絶しそうな軌道エレベーターや月面マッドマックスのような序盤の派手な演出や、『2001年宇宙の旅』的な月面着陸シャトルにニヤっとさせられるような描写は、ケフェウス号強奪後には陰を潜め、その後はひたすらロイと広い宇宙での孤独を共有することになる。ヌッと現れる土星に驚かされたり、美しい海王星の環に息を呑んだり。そこにあるのが夢や希望でないとしても、どうしてもロマンを感じる。この美しさに惹かれる気持ちこそが上述の逆説へと導くのである。また、本作に対してSF的壮大さを求めた場合にもきっと同じ逆説へと導かれるはずである。

この近未来では民間の月面飛行(劇中での運行はヴァージン・アトランティック航空)が普及しているようだが、機内で枕とブランケットを頼むと125ドルというのはかなり高額である。クリフォードの昔の写真がモノクロであることからも、そう遠くない未来のはずなのに。普及していると言っても100ドルが高いと感じる層にまでは普及していないということか。

エンジン点火後のロケットに乗り込むアクション映画的な荒唐無稽さもあるが、これは何かのオマージュなのか。それとも単に盛り上げるためなのか。点火前だとロイを追い出すために出発を遅らせることができるという現実的な理由なのか。

エンドロールの最後にビープ音が聞こえたような気がしたのだが、気のせいだろうか。それとも耳鳴りか。三十郎氏の勘違いでなかった場合、地球へ帰還したのはロイの意識だけということになるのか。レンタルがはじまったら確認してみよう。もしくは、当ブログの読者の中にネタバレを気にせず本稿を読んで、これから観に行く人がいたら教えてください。ただの勘違いだとよいのだが。

 

*追記

ビープ音の件は三十郎氏の勘違いだったようである。混乱した人がいたらごめんなさい。

アド・アストラ (字幕版)

アド・アストラ (字幕版)

  • 発売日: 2019/12/18
  • メディア: Prime Video