オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『リトル・ミス・サンシャイン』

Little Miss Sunshine, 102min

監督:ジョナサン・デイトンヴァレリー・ファレス 出演:アビゲイル・ブレスリンアラン・アーキン

★★★★

概要

ミスコン会場を目指して一家で旅する話。

あらすじ

勝ち組にこだわる負け組の自己啓発系ビジネスマンの父リチャード(グレッグ・ギニア)、ニーチェに影響されて喋らなくなった息子ドゥエイン(ポール・ダノ)、ミスコン出場を目指すポッコリお腹がキュートな娘オリーヴ(アビゲイル・ブレスリン)、ヘロインの使用がバレて老人ホームを追い出された祖父エドウィンアラン・アーキン)、自殺未遂のプルースト研究者の伯父フランク(スティーヴ・カレル)、そして母シェリル(トニ・コレット)。濃いなあ……。これが旅の仲間、フーヴァー家の面々である。

感想

序盤は一人R指定エドウィン翁が映画を引っ張る。家庭内不和の重苦しい雰囲気の中、「15才なのに童貞か?」「若い子は病みつきになるぞ」「未成年同士の犯罪にならない内にヤリまくれ」「一人とじゃなく大勢の女とヤりまくれ」「これが経験者の声だ」とドゥエインを政治的話題で鼓舞する。本作以降のアラン・アーキンは口の悪い老人の役ばかりを演じていると感じるのは気のせいだろうか。真面目な役もあるのなら失礼。しかし、オスカー受賞も納得のこの役がハマり過ぎて他の姿が思い浮かばない。彼が映画デビュー作で主演男優賞にノミネートされたという『アメリカ上陸作戦』を観てみたい。若かりし頃の彼はどんな演技を見せていたのだろう。

コメディリリーフとして一人で映画を引っ張ってきたエドウィン翁がドラッグを決めて、そのまま帰らぬ人となりさあ大変。どうなることかと思いきや、リチャードが壊れる。頼りにしていた契約を反故にされどん底になった男が、亡き父の遺志を引き継いで暴走する。最後までちゃんと笑わせてくれるのである。

クレイジーなファミリーの中で一人無邪気に振る舞うオリーヴも、ただ無邪気なだけの少女ではない。彼女は幼いながらに父の言葉の影響を受けており、「負けるのが怖い……。負け組はパパに嫌われる」と祖父に弱音を漏らす姿がなんとも切ない。子どもは大人が想像する以上に周囲をよく見て理解している。そして傷ついている。この繊細な部分と無邪気な部分とを演じ分けられたからこその助演女優賞ノミネートだったのだろう。この愛らしい女の子からオスカーを奪い去った不届き者は誰か!調べてみると『ドリームガールズ』のジェニファー・ハドソンだった。これでは文句の付けようがない。この年は『あるスキャンダルの覚え書き』のケイト・ブランシェットもノミネートされている激戦だったようである。ちなみに『バベル』の菊地凛子がノミネートされたのもこの年。

会場に辿り着くまでだけでも十分に楽しませてもらったが、エドウィン翁が最後に遺した爆弾は強烈である。初見で笑わずにいられる人はいるのだろうか。確かにエドウィン翁らしいし伏線も張られていたが、まさかこう来るとは!モラルとか常識とか、そんなつまらないものを全て超越している。踊るのが7才の孫娘だとか関係ない。彼にとってダンスと言えばあれなのだろう。

祖父は死んだし、父はほぼ失業状態、娘はミスコンで驚愕の敗退を遂げ、息子は再度人生に迷っている。はっきり言って状況は何一つ良くなっていないはずなのに、心がポコっと温かくなる。人生は周囲と比べてどうこうするものではない。隣にいてくれる家族を大切にしていれば幸せなのである。エドウィン翁の置き土産は偉大である。

ハートウォーミング系の映画のポスターの背景に黄色が使われるようになったのは本作以降ではないかと思う。本作では一家の乗っているフォルクスワーゲンのオンボロミニバスの車体が褪せた黄色なのだが、他の映画には流行以外の理由はあるのだろうか。そもそも黄色に温かいイメージがあるからバスの色を黄色にしたのだろうが、その後の黄色のイメージに本作が与えた影響は無視できないものがある。