オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『大脱走』

The Great Escape, 172min

監督:ジョン・スタージェス 出演:スティーヴ・マックィーンリチャード・アッテンボロー

★★★★★

概要

捕虜収容所から集団で脱走する話。

短評

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を観るとどうしても観たくなる一作。ちょうどHuluで配信されていて助かった。ヒルツ大尉をリック・ダルトンが演じていたらどんな映画になっていたのだろうと想像するのも楽しいが、改めて観るとやはりこの役はスティーブ・マックイーンでなければならないと思うのである。

感想

どうしてヒルツはこんなにも格好いいのだろう。集団脱走計画“ビッグX”において彼が重要な役割を果たしていることは間違いないが、映画の大半は彼の定位置である独房で過ごしている。脱走し、捕まり、独房へ入り、解放され、脱走する。阿呆の如き単純な繰り返しである。それなのに他のキャラクターたちよりも圧倒的に格好いい。他のキャラクターにもそれぞれ魅力があり、素敵な仕事ぶりを見せているのに、『大脱走』と言えばヒルツの映画なのである。スティーブ・マックイーンのスター性がそう見せるのか、バイクに跨り駆け巡る姿が格好いいからなのか、それとも彼の百折不撓の精神こそが本作そのものを象徴しているからだろうか。

独房でボール遊びをするだけでも格好いいヒルツだが、圧巻なのはバイク・チェイスである。疾走する姿も、ジャンプする姿も、鉄条網に絡まりながらバイクに「お疲れ」と語りかけるかのようにポンッと軽く叩く姿も、全てが画になる(危険なシーンの裏にはクリフのような男がいたと想像してみるのもまた一興)。三十郎氏は二輪免許も持っていないくせに「バイクに乗るならトライアンフ」と心に決めている。数年前にスティーブ・マックイーン・エディションというモデルが限定発売されたときには大いに心が揺れ動いたが、映画が好きだからという理由だけではとても手を出せない価格であった。そもそも三十郎氏は二輪免許を持っていない上に、自動車すら運転できない金色のペーパードライバーなのである。それでも憧れだけは今も持ち続けている。バイクに乗るならトライアンフ

ヒルツのもう一つの見せ場は、独立記念日を祝う密造酒の製造だろう。アメリカ人のアルコールに懸ける情熱は凄まじい。三十郎氏は本作でmoonshineという単語を覚えた。ジャガイモから造ったという密造酒の味はどんなものだろう。もし飲めるのなら是非「Wow……!」とリアクションしたいものである。他にもforger(偽造屋)のような単語を覚えたのも本作である。そしてもちろんcoolerも。

印象的なのはコリン(ドナルド・プレザンス)とヘンドリー(ジェームズ・ガーナー)のコンビ。失明したコリンや暗所恐怖症のダニー(チャールズ・ブロンソン)は貢献者だが、計画全体の効率を落としてまで彼らを脱走させようとしたのは何故だろうか。そこは合理性よりも「苦労を分かち合った仲間を脱走させてあげたい」という気持ちが優先したのだろうか。論理だけでは説明できないものがドラマなのだろう。三十郎氏はコリンの「ミルク抜きのお茶は野蛮」という言葉に影響を受けて、ダージリン以外の紅茶にはミルクを入れることに決めている。三十郎氏は文明人なのである。

収容所の所長ルーゲルは、他の映画で見るようなナチスのイメージとはかなり異なる。快適な環境を提供して脱走以外の余暇に専念させようとするのが面白い(快適な環境を提供しようとした結果、ドイツ人らしい質実剛健なモノづくりが脱走を手助けすることになるのも面白い)。第二次大戦時のドイツをナチスというイメージで十把一絡げにしがちだが、空軍大佐の彼がゲシュタポやSSと対立しているように、ドイツの中にも様々な立場があっただろうという当たり前のことを思い出させてくれる。映画のラストでは「良い人なのに気の毒に……」と思ったものである。本作自体も明るくてワクワクするという異色の戦争映画である。こうした“視点”の提供もまた本作が名作たる所以だろう。

役名を出した出演以外にも、リチャード・アッテンボロージェームズ・コバーンデヴィッド・マッカラムとスター揃いである。もしリメイクするのならキャストは誰になるのだろう。そして、製作費はいくら掛かるのだろう。