オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『メトロマニラ 世界で最も危険な街』

Metro Manila, 115min

監督:ショーン・エリス 出演:ジェイク・マカパガル、ジョン・アルシラ

★★★★

概要

フィリピンの農民一家が首都マニラに行く話。

短評

胸の苦しくなるヒューマン・ドラマと緊迫感溢れるサスペンスが組み合わさった見事な一作である。(特に終盤は)話が出来すぎている部分もあるのだが、ドキュメンタリーのようなタッチの映像が映画にリアリティをもたらしている。

あらすじ

フィリピンの田舎、棚田の見事なバナウエで農業を営んでいたラミレス家が食い詰める。一家は職を求めて、二人の幼い子どもを連れて首都マニラへ。一家の父オスカーはマニラ到着早々に職安で詐欺に遭い、無一文のホームレスとなる。なんとかスラムに住まいを見つけ、更に従軍経験を買われて警備会社に職を得る。妻マイは美人なので夜のお店に職を得る。厳しい環境の中で生き抜く話かと言うと、そう優しい世界ではないのである。

感想

オスカーが職務中に強盗に襲われるというありそうな展開により“過酷さ”を描くのではなく、採用そのものや優しい先輩オングが図ってくれる便宜の裏側にある計画により“追い詰められる男”を描いている。あまりに物語的過ぎるきらいはあるが、その背景となる一家の置かれた状況をこれでもかと観客に突きつけているため、オスカーの行動がグサグサと突き刺さる。妻のマイが辛そうに働く姿もグサグサと突き刺さる。そして、娘の姿そのものがグサグサと突き刺さる。見ていて辛いことこの上ない。

夫の危険な仕事と妻の卑猥な仕事を描くだけでも上質なドラマとなっただろう。ダルデンヌ兄弟的な映画が撮れたかもしれないし、むしろその方が完成度は高まったのかもしれない。しかしながら、サスペンス要素が、生々しく痛々しい本作にエンタメ要素を付与して興味を惹きやすくなっているし、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を観た後だと「こういうのもありかな」という気分になるのである。そもそもサスペンスとして面白いという事実も否定できない。

一家がマニラに着いたときの空気は圧倒的な熱量を感じさせ、溢れかえる人の波も「これぞ東南アジアだ」という感じがしてワクワクする。ペニンシュラホテルを見て浮かれる娘の気持ちもよく分かる。マニラに行ってみたいという気になるも、映画の進行と共に厳しい現実を突きつけられると、その気持ちも萎んでいく。性産業の裏側を見せられれば、おっぱいですらトラウマ・スイッチと化す。映画の舞台としては最高に魅力的だったマニラだが、本作の観光産業に対する貢献は少なそうである。

監督は、三十郎氏界隈でおっぱい映画として名高い『フローズン・タイム』のショーン・エリスである。イギリス人の彼が監督・原案・脚本・製作・撮影の全てを務めた本作がどれほどフィリピンの実情を反映しているのかは不明だが、写真家出身の監督らしく雰囲気づくりが抜群で、十二分に訴えかける力を持った一作だった。美しく汚い映像が素晴らしい。本作にもおっぱいが出てくるが、状況が状況だけに嬉しくなるどころか辛くなる。

メトロマニラ 世界で最も危険な街 [DVD]

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