オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『クライシス・オブ・アメリカ』

The Manchurian Candidate, 129min

監督:ジョナサン・デミ 出演:デンゼル・ワシントンメリル・ストリープ

★★★

概要

軍需企業が副大統領候補を洗脳する話。

あらすじ

戦争の英雄が副大統領候補に指名される。ところが、その英雄譚は全部嘘っぱちでしたというお話。本人が立身出世のために嘘をでっち上げたショーンKのような話ではない。彼自身も偽の記憶を植え付けられ、部隊の仲間も同じ記憶を植え付けられて、架空の英雄譚が現実のものとして認知される。誰がそんなことをしたのかと言えば、彼の母親である上院議員メリル・ストリープ)や、そのパトロンである軍需企業の影がちらつくのである。

感想

もし政治家が私企業により洗脳され、意のままに操られているとしたら恐ろしい話である。現実に洗脳という行為によりどこまで人間の意思に介入できるのかは分からないが、アメリカは実際に洗脳実験をしていたような国なので、逆に自分たちがその脅威に晒されるかもしれないという恐怖には一定の真実味があるのだろう。しかしながら、そこまでせずとも献金を通じて政策が左右されている現実があるというのは皮肉な話である。その皮肉が込められた脚本という気がする。

事の真相を追うのは候補者ショーと同じ隊に所属していたマルコ少佐(デンゼル・ワシントン。戦争時は大尉)。明らかにPTSDを発症している同隊所属メルヴィンが彼を訪れたことを切っ掛けに「ショーの英雄譚は怪しい」と疑いはじめるのだが、マルコ本人もまたPTSDである。従って軍上層部に掛け合っても真剣に取り合ってもらえない。外部から見ればマルコの方が信用ならないという設定はもっと引っ張ってもよかったのではないかと思う。洗脳という少し胡散臭い存在を肯定して話を進めるよりも、どっち付かずの状態にしておいた方が二重のスリラーが生まれるのではないか。

身体にチップを埋め込んで意識を操るというのが現実的に可能なのかは想像がつかないが(脳の研究が進めば本当に可能となるのだろうか)、映画のラストで証拠映像を捏造する技術は完全に現実のものとなった。写真や映像の証拠能力が下がると、手を加えた形跡を見破る技術開発が進められ、それに対抗すべく騙す技術も発展するいたちごっこが繰り広げられるのだろう。映画好きは本物に見える偽物の映像を恩恵を最大限に受けているが、自分が見ているものが信じられない世界になるかと思うと恐ろしい。

原題を直訳すると「満州の候補者」となる。満州と何の関係があるのかと思っていたが、洗脳を施す軍需企業の名前が「マンチュリアン・グローバル」だった。マンチュリアン・グローバルが満州と何の関係があるのかまでは分からなかった。リメイク元の『影なき狙撃者』は朝鮮戦争が背景になっているようなので、そちらの方で満州が出てくるのかもしれない。