オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

Once Upon a Time... in Hollywood, 161min

監督:クエンティン・タランティーノ 出演:レオナルド・ディカプリオブラッド・ピットマーゴット・ロビー

他:アカデミー賞助演男優賞ブラッド・ピット)、美術賞(バーバラ・リング他)

★★★

概要

ポランスキーの隣に住む落ち目のスターの話。

短評

タランティーノが自身の愛する時代を終わらせたくない、この映画に閉じ込めておきたいと猛烈に主張している一作。彼がこれまでに監督してきた映画でやっていたことは全てこういうことだったのかとよく分かる。これまでの映画ではその強い想いをエンタメとして上手く再構築してきたが、本作では主張が突っ走っている。愛が暴走している。一方の三十郎氏はタランティーノの溺愛の対象である60年代のハリウッドをよく知らない。ほとんど無知と言ってもよい。ちょっと置き去りにされた気分である。

感想

本作の下敷きとなっているシャロン・テート事件については、ポランスキーの妻であるシャロン・テートが妊娠中にマンソン・ファミリーにより殺害されたという概要さえ知っていればよいと思う。本作を真に楽しむための予習の対象はシャロン・テートではない。60年代のハリウッドそのものである。そのカバー範囲は膨大である。しかもそれらを単なる知識としてではなく、実感を持って知っておく必要がある。

その頃、三十郎氏はまだ生まれてもいないし、後年に当時の文化に親しんだわけでもない。その時代への憧憬もない。これはちょっと分が悪い。とにかく元ネタが分からないのである。『大脱走』のような超有名作品は分かるが、リック(レオナルド・ディカプリオ)が出演している作品については皆目見当がつかない。マカロニ・ウエスタンの文化を知っているくらいである。

とは言え、そこはタランティーノ。元ネタが分からずとも楽しめる程度には素晴らしいシーンを作り上げている。リックとクリフ(ブラッド・ピット)の関係、リックの出演する西部劇の撮影風景(子役とのやり取りも良い)、リックの出演作、クリフがスパーン映画牧場を訪れたときの不穏な雰囲気、そして爆笑かつ激烈なクライマックス。魅力的なシーンの連続である。「ここが良かった」というシーンを挙げていけばキリがない。

それらがどこに収束するのかと言えば上述したタランティーノの強い愛なのだが、それはメタな視点であって映画の中の物語が上手く展開、収束したとは言い難い。タランティーノが愛するものと彼を愛するファンにだけ向けて作られたような印象である。「分かる人にだけ分かればいい」と好きにしてきたのはこれまでも同じなのだろうが、彼はそうでない者にも伝えようとする姿勢のあるエンターテイナーだったような気がする。願わくは、リックが読んでいた小説のように劇中の物語に自分を重ねられるような広がりを持ってほしかった。

愛する時代を終わらせたくない。どれだけ願ってもそうならないことは彼自身をが最もよく理解しているのだろう。劇中ではリックとクリフの蜜月の時代が終わりを迎えるし、観客は大スターのディカプリオとブラピの老いを見て時の流れを感じる。今でもハンサムで鍛えられた身体をしているが、シワも増えたし、『ファイト・クラブ』の頃に見せた彫刻のような肉体とまでは言えない。

映画はフィクションである。劇中でブルース・リーとクリフに互角の戦いを演じさせてブルース・リーが無敵に人ではないと示したように、現実にはクリフがあそこまでの強さを見せることはない。シャロン・テートは殺されたし、タランティーノが愛した時代も死んだ。だからこそ彼はこの映画を作って、自分の宝物を閉じ込めることにしたのだろう。この映画の世界では彼の愛するハリウッドは生き続ける、すなわちタランティーノの愛する時代はタランティーノの中で永遠に生き続けるのである。その想いが観客に伝わるのなら、それは本当に永遠の存在となる。

 

*追記

クリフが妻を殺したのどうか分からないという描写は、#metooへの反発だろうか。反発はあっても、グレーゾーンの男が噂だけで追放される時代ではなかったということか。最後の展開の動機の部分はどう考えても強引なのだが、「映画ってのはそもそもそういうもんなだよ!ポリコレとか上品ぶってんじゃねえぞ!」という意図が読み取れなくもない。タランティーノのキャリアはワインスタインと共にあったと言っても過言ではない。彼が愛した時代は、良くも悪くも清濁併せ呑む時代だったはずである。

面白い映画だったのは間違いないのにもう一つ乗り切れなかった理由を考え続けた結果、次のような結論に達した。一つは、個別のエピソードの楽しさに反して、本筋自体は楽しいものではないからだろう。もう一つは、タランティーノが終わらせたくなかった時代のハリウッド映画よりも、その終焉により生み出されたアメリカン・ニューシネマの方を三十郎氏が愛しているからではないだろうか。

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド (字幕版)
 
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド オリジナル・サウンドトラック

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド オリジナル・サウンドトラック