オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『イングロリアス・バスターズ』

Inglourious Basterds, 152min

監督:クエンティン・タランティーノ 出演:ブラッド・ピットクリストフ・ヴァルツ

★★★★★

概要

映画館でヒトラーを燃やす話。

短評

キル・ビル』や『デス・プルーフ in グラインドハウス』で自身の趣味路線を邁進していたタランティーノが高額の予算を得て製作した万人受けする(?)痛快なエンターテインメントである。彼の初期の作品の素晴らしさは改めて言うまでもないし、『キル・ビル』のポンコツ感も好きだが、三十郎氏はレイン中尉の最後の台詞「こいつは俺の最高傑作だぜ」を本作に送りたい。

感想

ブラッド・ピット演じるアルド・レインや、イーライ・ロス演じる“ユダヤの熊”ことドニー・ドノヴィッツなど、バスターズの面々も大好きではあるが、やはり特筆すべきはハンス・ランダ大佐(クリストフ・ヴァルツ)である。レクター博士のよう攻撃的な恐怖を感じさせるのでもなければ、ヴェイダー卿のように圧倒的な強さを誇るのでもない。それなのに最高の悪役!とにかく憎たらしいのである。

ランダは表面的には穏やかで友好的な男である。任務に対して忠実で有能。合理的な男である。しかし、彼が友好的に会話している間も、その場には強烈な緊張感が漂う。この緊張感は彼が発しているわけではなく、彼に見抜かれると困る相手が緊張しているのである。彼の方から緊張感を発するのはほんの一瞬。冒頭のラパディットとの会話では眉の位置がほんの少し下がるだけで怖ろしい表情に変貌する。

彼の底に潜む恐ろしさを見せられてからは、笑顔でも引き締まった表情でも常に怖い。彼は底が知れない。この物語の全てが彼の手のひらの上で転がされてきたかのようであるからこそ、彼にも予想のつかなかったアルドの非合理的な“してやったり”に胸のすく思いがする。

エンタメの部分は全面的にバスターズが担っている。「お前ら全員ナチの頭皮を100枚集めてこい」と演説をぶつブラピの格好良さと愉快さである。“Jew-hating mass-murdering maniac”なんて言葉は面白すぎるし、“The Germans will be sickened by us, and  the Germans will talk about us, and the German will fear us.”のところのリズム感と言ったら!もちろん隊員たちのバットで頭を砕いたり、頭皮を剥いだりする痛々しいのに愉快なグロテスクさも見逃せない。

三十郎氏が愛してやまないカットがある。ランダとエマニュエル・ミミュー(メラニー・ロラン)がレストランで食べるシュトルーデルにクリームを乗せるシーン。三十郎氏は何故かこのシーンに堪えきれない官能性を感じるのである。その前に挿入されたゲッベルスと愛人の交わりが喚起させるものなのか(アンカリング仮説)、命の危機を感じさせる極度の緊張が逆に催すのか(疲れマラ仮説)、それとも白い物体をかけるという単純な理由なのか(ぶっかけ仮説)。そのいずれでもないのか。自分にもまるで分からない。

極浅の被写界深度で捉えられたお菓子とクリームに謎の興奮を覚えずにはいられない。極浅の被写界深度は、ランダが文字を書くシーンや、ハマーシュマルク(ダイアン・クルーガー)の靴を脱がせるシーン、ミミューが口紅を塗るシーンにも使用されている。どれも良いシーンだが、三十郎氏を興奮させるのはシュトルーデルに乗せられるクリームだけである。 

映画を彩る美女についても記しておきたい。エマニュエル・ミミューことショシャナ・ドレフュスを演じるメラニー・ロランは、「三十郎氏編纂・銀幕の美女列伝」に本作でその名を刻んだ(登録されたのはカフェで煙草を片手に読書するシーンとランダが去って胸を撫で下ろすシーン)。首まわりのホクロもセクシーだが、左目の下にあるアザかシミですらチャームポイントである。立ち昇る煙に歪んだ笑みが投影される演出も素晴らしい。そして、彼女にはキャスケットがよく似合う。

ダイアン・クルーガーの美しさは、『トロイ』でオーランド・ブルームと三十郎氏の心を奪ったときから変わらない。アルドに指を突っ込まれて喘ぎ、ランダに首を締められて断末魔の表情を浮かべる。美女は苦しむ姿も美しい。他にもレア・セドゥが台詞のないラパディット家の娘シャーロット役で出演していたり、酒場の娘マチルダを演じるアン・ソフィー・フランクが素朴で可愛かった。

大好きな作品なのに今更気付いたのだが、ヒューゴ・スティグリッツやフィルムの可燃性を紹介するナレーションがサミュエル・L・ジャクソンだった。三十郎氏にとっての傑作とは、何度観ても特別に面白く、また新たな発見のある映画である。五つ星評価している映画は、いずれもそのような作品である。なお、その数が極端に少ないのは、好き過ぎる映画について上手く文章にできないのが悔しくてなかなか観ないからである。ブログのせいだ。

今月末までのセールでHDの配信版が500円になっている。