オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『スリーピング・ボイス 沈黙の叫び』

La voz dormida(The Sleeping Voice), 123min

監督:ベニート・サンブラーノ 出演:インマ・クエスタ、マリア・レオン

★★★

概要

フランコ独裁政権下で共産主義者の妊婦が死刑になる話。

短評

1939年の内戦終結から1975年まで続いたフランコ独裁政権。本作は、内戦集結の翌年、反体制派の粛清が進められていた時代の女性刑務所での出来事を描いたものである。戦争が苛烈を極めるのは知っての通りだが、“戦争の終結”もまた必ずしも平和を意味するものではないのである。太陽の光が燦々と降り注ぐ陽気なラテンの雰囲気はどこにもなく、暗く、重く、陰鬱である。

あらすじ

物語の軸は姉オルテンシア(インマ・クエスタ)と妹ペピータ(マリア・レオン。目の色が鮮やかで素敵)の姉妹。反体制派の姉は囚えられ、裁判を待つ身である。一方の妹は敬虔なカトリック信者である。信念とは別の部分で、ただただ姉と彼女の身に宿った新しい命を案じている。

感想

信念の人である姉ばかりに焦点を合わせるのではなく、妹の視点で描かれているのが興味深かった。姉だけを主人公にしていれば、ナショナリストが間違っていて共和国派が正しいという結論だけが導かれかねない。どちらの陣営にも積極的に属さない妹の存在が(最終的に仲間のいる反体制派に傾きはするのだが)、どちらかの思想が正しいというのではなく、卑劣な行為が行われたという事実を浮かび上がらせる。反体制派が勝利していたとしても、同じような行動を取ったであろうことは想像に難くない。

もう一つ興味深いのはカトリックの描き方である。共産主義は宗教そのものを否定している。教会は彼女たちを救う存在とはならず、逆に積極的に弾圧する側に回っている。オルテンシアがイエスの人形に口吻することを拒むと、シスターは「赤子のイエスを人形だと!」と激昂するが、「ただの人形がイエスだと!」とは怒らなくてもよいのか。偶像崇拝者どもめ!

処刑のシーンがなかなかの惨さ。ライフルで一斉射撃を浴びせたあと、倒れた死刑囚たちに一人ずつ拳銃を撃ち込んでいく念の入れようである。

ところで、スペイン内戦やその後の独裁政権下で苦しむ人々を描いた映画はときどき見かけるのだが、フランシスコ・フランコ本人を題材にした映画はないのだろうか。ファシスト政権の悪行を個人にのみ帰責するのは危うい行為だと思うが、彼の人物像についても気になる。『ヒトラー ~最後の十二日間~』が公開されたのは、第二次大戦から60年が過ぎてからである。フランコ本人を描くのは時期尚早なのだろうか。現代のスペイン人は彼についてどう感じているのだろう(地域や世代によって大きな違いが出そう)。