オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『クワイエット・プレイス』

A Quiet Place, 90min

監督:ジョン・クラシンスキー 出演:エミリー・ブラント、ジョン・クラシンスキー

★★★

概要

音を立てると怪獣に襲われる話。

短評

音に反応する怪獣と、それに襲われる一家という最小単位で見ればとても面白いホラー映画である。しかしながら、いくつかの疑問が終始つきまとう。確かに怖いのだけど、これはどうなっているのだろうと雑念が拭い切れなかった。

感想

物語のはじまりは89日目。怪獣が最初に現れた日からのカウントだろう。主人公一家はスーパーで音を立てずに物資調達している。ここで、“音を立ててはいけないこと”と“人間社会が既に荒廃していること”の二つが判明する。分かりやすく魅力的な導入である。

疑問は大きく分けて三つである。

一つ目の疑問は音そのものについてである。音を立てないようにと言っても、完全に音を消し去れるわけではない。呼吸音はするし、いくら忍び足でも足音もする。手話でコミュニケーションを取るにも動作音がする。怪獣は一体どのような種類の、どの程度の大きさの音に反応するのか。怪獣の生態なんてよく分からないままでも結構なのだが、声を出して会話ができないのに生活音は出しているという人間側の行動が理解できない。

二つ目の疑問は靴である。一家は音を立てないように裸足で生活している。危険だろう。スニーカーではダメなのか。sneakerとは忍び寄る者という意味である。忍者である。ツルツルとした床ならばキュッキュと音がするかもしれないが、屋外では靴を履くべきである。人間社会が崩壊してもスニーカーくらいは見つけられるだろう。現に主人公一家は生活物資には困っていなさそうだし、服もちゃんと着ている。

三つ目の疑問は怪獣の強さについてである。数はかなりいるらしいが、弱ったところを銃で殺せるのなら、人間社会を崩壊させられるほどの存在ではないだろう。

それらの疑問はとりあえず無視しておいて、音を出せないという設定は素敵である。同じく音を出せない『ドント・ブリーズ』も大ヒットしているし、“何か一つしてはいけないことがある”という明確なルールがホラー映画向きなのだろう。音が出そうなシチュエーションで「ダメダメ、それはやっちゃダメ……」とドキドキすることで、状況に没入しやすくなる。

単に怪獣に襲われるだけであれば、ここまで高い評価は得られなかっただろう。怪獣は何らかメタファーと考えるべきである。三十郎氏は赤ん坊に注目する。赤ん坊は泣くものである。泣くなと頼んで泣き止むものではない。“音を出してはいけない”世界で“絶対に音を出す”赤ん坊をつくってしまうのは不自然である。そこには意味があってしかるべきである。

音を立てないというのは、眠っている赤ん坊を起こさないための慎重な行動なのではないか。音を立てることへの恐怖は、静かだった赤ん坊が烈火の如く泣き叫ぶことへの恐怖ではないか。子育てって大変ですね。アメリカ政治への風刺という真っ当な解釈もあるようだが、三十郎氏は赤ちゃん=怪獣説を推す。子育ての当事者でない三十郎氏は低みの見物を決められる。

釘の描写は見ているこっちが痛くなるので、好きだけど苦手である。

劇中で夫婦を演じているエミリー・ブラントとジョン・クラシンスキーは実際の夫婦である。夫は本作の監督も務めている。娘のリーガンを演じたミリセント・シモンズは『ワンダーストラック』でも聾者の役を演じた本物の聾者である。ディスコミュニケーションは現代の重要なモチーフの一つなので、これからも活躍の場は広がりそう。