オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『Fantasy Seller』新潮社ファンタジーセラー編集部編

概要

『四畳半王国見聞録』執筆の経緯。

感想

四畳半王国見聞録』に収録されている短編たちが執筆された経緯が記されている。登美彦氏本人がブログで紹介しているように「嘘なのか本当なのかよく分からない解説のようなもの」である。

たとえば「四畳半王国建国史」は、四畳半に閉じ籠もってばかりいることに罪悪感の湧いた登美彦氏が、その罪悪感に打ち勝って孤高の道を歩む男を描いた話である。続く「蝸牛の角」は、シュレディンガー方程式を憎む登美彦氏が、「シュレディンガーの猫」のような思考実験をしている内に生まれた話である。そんな具合に「真夏のブリーフ」「大日本凡人會」「四畳半統括委員会」「グッド・バイ」「四畳半王国開国史」についても語られる。

それらしいところもあるが、冗談のようにも思える。確かにこれは「嘘なのか本当なのかよく分からない」。このよく分からなさが「もう一つの世界売ります」を宣伝文句にした本書に収録された所以なのだろう。

他の収録作品は全て真っ当な小説である中で、一つだけ場違いなエッセイが紛れ込んでいるようだが、実はちゃんとファンタジーなのかもしれない。「このように面白い経緯に基づいて作品が成立していたら素敵だなあ」という登美彦氏の願いが生み出したもう一つの世界として読めば立派なファンタジーである。少なくとも編集部はそう判断したのではないか。本当の話だったなら、ごめんなさい。

次の箇所が好きである。

シュレディンガー方程式が分からんことによって、登美彦氏は大学の授業は分からんものであるという誤った観念にとりつかれ、さらに頑張ってもの分からんものと頑張れば分かるものとの間に明確な線を引くことを怠けた。

森見登美彦『四畳半世界放浪記』より

自分が怠けてしまったのはこれだったのかと過去を省みる。しかし、三十郎氏が最初に分からんと諦めたのは何だったのだろう。他には、「おっぱい」そのものに愛着があるわけではなく、「おっぱい」という語感に文学的興味があると言い訳するところや、登美彦氏の作品の多くは「四畳半からの脱出」の一言で説明がつくと言ってしまうところが気に入った。

登美彦氏以外の作品で気に入ったのは、堀川アサコの『暗いバス』と遠田潤子の『水鏡の虜』。前者は現実世界と表裏一体かつ地続きの別世界感が気持ち悪い。後者はファンタジー感は薄いものの、拷問の描写があまりにエゲツないので、別世界の話であってほしいと思うほどある。三十郎氏はこういう文章に出会ったとき、思わず顔をしかめてしまう。

Fantasy Seller (新潮文庫)

Fantasy Seller (新潮文庫)