オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『リズと青い鳥』

Liz and the Blue Bird, 90min

監督:山田尚子 出演:種崎敦美東山奈央

★★★★

概要

女子高生の繊細な関係。

短評

けいおん!』シリーズのファンなので山田尚子監督作は欠かさず映画館へ足を運んできたが、TVアニメ『響け!ユーフォニアム』が嫌いだという理由で本作はパスした。失敗であった。

感想

TVアニメ版が嫌いな原因は滝という顧問にある。彼のブラック企業の洗脳の如き卑劣なやり口が気に食わない。三十郎氏がどれほど彼を嫌いかについて書くと、ジョイちゃんへの愛を語るよりも長くなるので割愛する。憎き滝がほとんど出てこなかったのは助かった。

山田監督の過去三作『映画けいおん!』『たまこラブストーリー』『聲の形』でのストーリー上の不満点が解消されていたことに驚いた。いずれの話も今いる場所に居場所を見出す話である。『けいおん』は四人揃って同じ大学へ進み、『たまこ』のもち蔵は商店街へ帰ってくる。『聲の形』の石田将也は死にたいと思うほどに嫌な思いをした場所を自分の居場所にしてしまう。遠に思春期を過ぎた三十郎氏としては「少年少女よ、外の世界にも目を向けてみた方がいいですよ」とお節介なことを考えずにはいられない。

本作では友情という名の束縛から少女が解き放たれる。一方が他方を束縛する関係でなければ、単純な共依存でもない。一人は自分で自分を他者へと縛りつけ、もう一人は自分が彼女を縛る紐を握っていることに気付いていない。人から解放されるのではない。関係から解き放たれる。

彼女たちがそんな関係に気付くきっかけとなるのが「リズと青い鳥」という物語と曲、そして後輩の少女と女性講師の存在である。特に後輩の剣崎梨々花は、鎧塚みぞれが傘木希美へと目を向けさせる重要な役割を担っている。彼女が希美にゆで卵を渡すのは、希美が卵の殻を割ってみぞれを羽ばたかせるメタファーだろう。

思春期の儚くも不健全な関係に終止符を打ち、一歩前へと進み出す。とても美しい物語だが、羽ばたく鳥を送り出す者には残酷な物語でもある。しかし、自分についてより自覚的になれたのは希美の方だろう。みぞれは自身の特殊性に気付きはしたが、解き放つ者の愛に応えるために羽ばたくに過ぎない。依存願望そのものから脱したわけではないだろう。

細かい点だが不満だったのは、「リズと青い鳥」になぞらえた関係性の逆転に気付いた二人がそれを声に出すこと(最後の部分は出していない)。折角言わずとも分かるように演出しているのに、声に出すことで過剰演出になっている。全体の静謐な雰囲気にも合わない。

もう一点よく分からなかったのは、図書館で本を借りた後に行く手の分かれた二人のいる窓の外を青い鳥が飛ぶシーン。希美のは鳥が飛んでいくのに気付かないが、みぞれは気付いてハッとする。こちらは解釈次第なのだろうが、三十郎氏には解せなかった。少なくとも単純な理解には反する演出である。

「互いに素」という言葉が出てきて懐かしさを感じていたら、その言葉自体が本作を一言で表現する重要なキーワードだった。

TVアニメ版では自分を抑えられずやかましかった吉川優子が、二人の関係に極力介入しないように努めている姿が印象的だった。

他作品では何かしら形で自身の好きなロック要素を入れている山田監督だが、吹奏楽部を舞台をする作品でロックをBGMに使うわけにはいかないらしく、ルー・リードを台詞に混ぜている。