Heart of Darkness/Joseph Conrad
概要
アフリカの奥地に人探しに行く話。
感想
『森見登美彦をつくった100作』のNo.89。登美彦氏は本書を次のように紹介している。
ちょっと読み方としては少々ズレてるのかもしれませんが、これもまた「謎のシステムのまわりをウロウロする」作品として読んでいました。古い訳で読んだときにはワケが分からなくて挫折し、新訳のおかげで最後まで読むことができました。
アフリカの奥地で独自の地位を築き帰ってこなくなった男を探す話と聞いて「『地獄の黙示録』みたいな話だな」と思ったら、その通り同作の原作小説であった。コンゴとヴェトナムという場所の違いや、植民地支配と戦争という舞台の違いはあれど、「野蛮人どもを啓蒙してやるぜ」と乗り込んだ傲慢な白人が物理的・心理的迷宮に迷い込む点は共通している。本作のクルツも、映画のカーツ大佐も、英語の綴りはKurtzである。
久々に『地獄の黙示録』が観たくなった。『ワルキューレの騎行』の圧倒的な興奮とは対称的に、意味不明な後半戦の混乱ばかりが記憶に残っているが、「凄い」映画であることに疑いの余地はない。長く、混乱することが分かっているので観るには相応の覚悟が必要である。
映画と同様によく分からない話であった。作中で語られているように「胡桃の実が殻の中に入っているように、意味は話の中にきちんとおさまっている」のではなく「強い光のまわりに靄のような光が生じるように、意味は話から滲み出て、その話を外側から包む」といった類のものである。
先日読んだ『羊をめぐる冒険』も本作の影響を受けているそうである。「鼠」が屋敷に残した本がコンラッドのものだったので、次に本作を読むつもりだった三十郎氏は監視されているような恐怖を覚えたが、これで得心した。どちらも何かを探して迷う物語であり、その何かは思った形では見つからない。
登美彦氏の紹介文で「ちょっと」と「少々」の意味が重複しているように思うけれど、登美彦氏がしているのだからこういう使い方をしてもよいのだろう。