オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ガス燈』

Gaslight, 113min

監督:ジョージ・キューカー 出演:イングリッド・バーグマンシャルル・ボワイエ

他:アカデミー賞主演女優賞イングリッド・バーグマン)、美術賞(セドリック・ギボンズ他)

★★★★

概要

イングリッド・バーグマンが悪い男に追い詰められる話。

短評

イングリッド・バーグマンがオスカーを受賞した一作。「美女が追い詰められる話」の一言にまとめてしまうと、当ブログの愛すべきクソ映画クイーンであるミーシャ・バートンの主演作のようだが、追い詰められ方には圧倒的なリアリティと恐怖がある。

感想

いかにして相手を追い詰めるかというテクニックが詰まっている。ありもしないことを「覚えていないのかい?」と忘れてしまったかのように思わせたり、自分で盗んでおきながら相手が失くしたように振る舞ってみたり、自分で隠しておきながら相手が盗んだかのように糾弾したり。些細なことから重要なことまで、とにかく相手に落ち度があるかのように錯覚させる。すると次第に相手は「自分が悪いのでは?自分に何かおかしなところがあるのでは?」と不安になり、自分の現実認識に対する自信を喪失する。「君は病気なんだ」と突き落とせば、洗脳完了である。

これが本作でグレゴリー(シャルル・ボワイエ)がポーラ(イングリッド・バーグマン)を追い込んだ手法である。心理学の分野では本作のタイトルにちなみ「ガスライティング」と呼ばれているそうである。映画は1944年に製作されたものだが(オリジナルの舞台は更に遡って1939年)、今日もなお至るところで、この手法が使われているのかと思うと実に恐ろしい。個人間の虐待だけではなく、カルト宗教やブラック企業による洗脳など、閉鎖的な環境であれば応用が効く。より広範な情報を求めて客観性を保つことが、加害者の策略に嵌らない対策になるだろうか。

グレゴリーにやられっ放しでは胸糞悪いが、それまでの彼の行動を逆手に取った逆転劇には胸のすく思いがする。

タイトルのガス燈は物語上の仕掛けとしても心理面の演出道具としても面白い。物語自体にミステリーの要素をもたらしている。ポーラの顔を照らす揺らめく炎は、彼女の不安や現実認識への揺らぎが表れている。

オスカーにを受賞したイングリッド・バーグマンの演技は見事。単なる不安から狂気に近い自信の喪失へと追いやられる変化が巧みに表現されている。そして何より美しい。聖女のイメージとは裏腹に夫と子を捨てて不倫した女性であれど、美しいことに変わりはない。三十郎氏が北欧美女に対して謎の憧れを持つきっかけとなった女性の一人である。