オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『墓地を見おろす家』小池真理子

概要

寺・火葬場・墓地に囲まれたマンションでの新生活。

感想

夫の哲平、妻の美沙緒、娘の玉緒に犬のクッキー、そして鳥のピヨコ(引越しの翌朝に死亡)。一見すると絵に描いたような幸せ家族が新居で襲われる恐怖を描いた物語である。物語の構成として目新しい点はないが、「モダンホラーの先駆け」と評されているように当時としては新鮮だったのかもしれない。もちろん今読んでも楽しめる一作である。

舞台となる新築マンションは、寺・火葬場・墓地に囲まれているという悪立地のため格安である。主人公一家も格安という条件に惹かれて購入したため、奇怪な出来事が起こり始めてからもなかなか引越しを決断することが出来ない(『インシディアス』シリーズのように簡単に引っ越していたら話が成立しない)。この経済事情が、「手遅れ」になるのを上手く助けている。

正体は明かされないが、墓地の隣の家で、しかも土葬が行われていた地域とくれば、それはもう霊的なものの仕業だろうということになる。作中の出来事もそれが原因と考えてよいのだろうが、土地以外にも一家にまつわる因縁があることが良いアクセントとなっている。哲平と美沙緒はもともと不倫カップルで、哲平の妻が自殺したことにより結婚を果たした。夫婦間に影を落とすこの出来事が、読者にとってもしこりとなる。一家を襲う恐怖は不条理でありながら、それを予感させるだけの因果が存在する。

マンションという舞台設定が上手い。階段がなく、エレベーターだけが繋がっている倉庫が地下にある。このエレベーターという存在により、単なる故障なのか霊的なものの仕業なのか、曖昧なところから怪奇現象を始められる(その点、瞑想マスターが超自然的パワーを使うのは蛇足に感じた)。

状況描写が的確で話が分かりやすい。「問題が超自然的なものから現実的なものに変わった」などと書いてしまうのは説明的過ぎる気もするが、分からないよりはよい。

この世に恨みを持つ者ならともかく、どうして死者は生者を自分たちの世界へと引きずり込もうとするのだろう。自分たちが生きている内にされたら嫌なことくらい分かるだろうに。案外彼らには悪気や怖がらせるつもりなどなく、単に仲間を増やしたいだけなのかもしれない。宗教の勧誘しかり、独身者に結婚を勧める既婚者しかり、自分のお気に入りを声高に主張する者しかり、善意で仲間を作ろうとする者がそこかしこに溢れている。死者たちも「こっちの世界はいいぞ。現世的な悩みなんてさっさと捨ててしまえ」とポジティブに誘っているのかもしれない。迷惑な話である。

引越し業者が融けて消失したり、ガラスにペタペタと手形がついたり(『ミラーズ』みたいな感じになるのか)、画面映えしそうなショッキングなシーンも豊富だが、映像化はされていない。

些末なことだが、気になる記述が二点。「先発の巨人が早々とホームランを打っていた」という記述がある。「先発」ではなく「先攻」ではないか。「先発」と言えば、スターティングメンバー、とりわけ先発投手である。もう一点は、停電後のマンションで炊飯器を使う描写。電気がなくても当時の炊飯器は使えたのか。

墓地を見おろす家 (角川ホラー文庫)

墓地を見おろす家 (角川ホラー文庫)