オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『用心棒』

Yojimbo, 110min

監督:黒澤明 出演:三船敏郎仲代達矢

★★★★★

概要

凄腕の侍がヤクザの抗争を片付ける話。

短評

黒澤映画の最高傑作は何かと問われれば『七人の侍』と答えるが、最も好きな作品は何かと問われれば『用心棒』と答える。明快かつ爽快な物語、魅力溢れるキャラクター、緩急をつけるユーモア、緊張感漲る殺陣。どれをとっても一級品のアクション活劇である。

あらすじ

愉快さと妖しさが入り混じったような音楽に乗り、肩を怒らせ身体を揺らしながら、主人公の桑畑三十郎(三船敏郎)が舞台となる宿場町に姿を現す。この時点で猛烈に格好いい。素敵である。飯屋のオヤジ(このオヤジのイントネーションが良い)権爺から賭場の跡目を巡って清兵衛と丑寅の二つの陣営が揉めているという事情を聞きつけた三十郎は、両陣営を一掃することを企む。

感想

自らの実力を見せつけるため早速三人を切り捨てる三十郎。しかし、三十郎の魅力はその圧倒的な武力ではない。卓越した剣術の持ち主でありながら、抜群の知略によって両陣営を弄ぶ。両陣営は相手陣営の動向を知らない。三十郎ただ一人が両陣営の内部情報に精通し、時には嘘の情報を流して、自らの望む展開へと導くのである。情報を制す者が戦いを制す。自作自演により両陣営を対決に導き、櫓に登って文字通り高みの見物を決める。この時、画面下側では両陣営が左右に分かれて刀を向かい合わせている。画面上側の中央には櫓の上で嬉しそうに対決を見守る三十郎。三十郎が両者を見下ろす構図も良いが、この三者を一つの画面に収める構図は抜群である。

三十郎は他人を喧嘩させて遊んでいるだけの男ではない。それだけでは嫌な男である。素敵な男は、時に情に流される。哀れな親子を救うべく一肌脱ぐ三十郎。しかし、計算外の行動は三十郎を窮地に陥れる。それでも三十郎はここで死ぬわけにはいかない。「死ぬ前にたたっ斬らなきゃいけねえ奴がだいぶいる!」。格好よすぎてどうにかなりそうである。

三十郎不在の内に清兵衛陣営を打ち破った丑寅陣営に一人で全面対決を挑む三十郎。丑寅陣営には拳銃を使う卯之助(仲代達矢)もいる。猛烈な砂嵐を背景ににじり寄る両者を4つのアングルで捉える。まずは両陣営の背後から。そして前から。カットが交互に入れ替わり、じわりじわりと緊張感を高めていく。そして訪れる一瞬の結末。もう見事しか言いようがない。

ヤクザを壊滅させた三十郎は世話になった権爺にこう言い残し去って行く。「あばよ!」。痺れる。

「三十郎、格好いい!」「三十郎、素敵!」「三十郎、日本一抱かれたい男!」。しかし、格好いいのは“桑畑”三十郎であって、三十郎氏ではない点に注意しなければならない。そうでなければひたすら自画自賛を繰り返しているようで気味が悪い。三十郎氏は、せいぜい喧嘩の弱い亥之吉である。

しかし、亥之吉は亥之吉で(三十郎氏とは違い)魅力あるキャラクターである。彼の阿呆ぶりには愛着が湧く。彼は権爺に言いくるめられて棺桶を担ぐのだが、担がれているのは彼自身である。亥之吉をはじめとする個性あふれるキャラクターたちが三十郎の脇を固めている。本作は凄腕の侍による爽快な活劇だが、ただ主人公が無双するだけでは物足りない。やはり敵や味方にも魅力があってこそ引き立つ。

他の黒澤映画と同様に、自然現象が印象的に使われている。映画の冒頭から最終決戦まで戦いの裏では強風が砂埃を巻き上げる。戦いが膠着すると、三十郎が酒を飲みながら策を練る飯屋の外では豪雨が降りしきる。キャラクターが動かない時には背景を動かす。黒澤らしい演出である。

用心棒

用心棒