オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『グランド・ブダペスト・ホテル』

The Grand Budapest Hotel, 99min

監督:ウェス・アンダーソン 出演:レイフ・ファインズトニー・レヴォロリ

他:アカデミー賞美術賞(アダム・ストックハウゼン他)、衣装デザイン賞(ミレーナ・カノレロ)、メイクアップ賞(フランシス・ハノン他)、作曲賞(アレクサンドル・デスプラ

★★★★★

概要

ホテルのコンシェルジュとロビーボーイが上客の殺人事件に巻き込まれる話。

短評

へっぽこな登場人物たちがパステルカラーのオシャレな世界で織りなすシュールなコメディ。確かにそれだけでも十分に面白い(後述の魅力にまだ気づいていなかった三十郎氏は『ダージリン急行』をいたく気に入りインドへの旅に憧れた。そして実際に行った。)のだが、ウェス・アンダーソン監督の凄さはそれだけではない。

感想

彼の映画の最大の魅力は、画面構成の巧みさにある。どの場面を切り取っても美しい一枚の写真として成立する。セットや小道具の魅力も、この卓越した画面構成あってこそ際立つ。作風は違うように思えるが、キューブリックの映画に近いものがある。ウェス・アンダーソン以外だとデヴィッド・フィンチャーの映画にもキューブリック的な画面構成の美学が見られる。三十郎氏が遅まきながらその凄さに気付いたのは、自分で写真を撮るようになってからである。それだけでもカメラを始めた甲斐があった。一度その凄さに気付けば、何度観ても楽しめる、何度観ても惹き込まれる、正に傑作と呼ぶべき映画だと認識できる。彼の映画はどれも素晴らしいが、本作が最高傑作と言って差し支えない。

本作は枠物語の形式をとっている。観客を無用な混乱から救うべく、語られる年代により画面のアスペクト比が異なる。いずれのアスペクト比においても、完璧な画面構成が維持されているというのは、驚嘆に値する。

静止画としても美しいのに、画面の中には常に何かしらの動きがある。これでは楽しくないわけがない。カメラが固定されている時にも、登場人物は上下左右にリズミカルに動くし、人物が静止していても風になびくもの等で動きを感じさせる。画面の中に動きを感じさせる名手と言えば黒澤明である。黒澤への敬意は『犬ヶ島』にもよく現れている。未知の才能に出会った時に天才やセンスという言葉でまとめたくなるが、過去の名匠たちの良い部分を吸収して昇華している土台を持った監督であることが分かる。

本作の登場人物の中でもとりわけ魅力的なのは、シアーシャ・ローナン演じるアガサ。彼女がメリーゴーラウンドでゼロに詩集を送られた後に見せるうっとりとした表情の美しさは筆舌に尽くしがたい。全世界が彼女に恋に落ちる際の位置エネルギーを利用できれば、既存のエネルギー問題は全て解決するだろう。グスタヴ・H(レイフ・ファインズ)は、本作の鍵となる『少年と林檎』という絵画を「才ある詩人が言葉を尽くすも、歌はその美から遠ざかるばかり」と称賛するが、この言葉は彼女にこそ相応しい。

本作のアートワークをまとめた本がある。欲しい。

ウェス・アンダーソンの世界 グランド・ブダペスト・ホテル Popular Edition

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