オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『総特集 森見登美彦: 作家は机上で冒険する!』河出書房新社編集部

概要

単行本未収録小説三篇、全著作解説エッセイ、森見×明石対談、他。

感想

目次を一読して最も心惹かれたのは盟友・明石氏との対談である。小説ではないので順を追って読まずともよかろうと、この対談を最初に読んだ。明石氏が周囲の人々に「飾磨ではないか?」「明石ではないか?」と正体がバレているという冒頭でひと笑い。やはり小説外の本人も相当の傑物に違いない。小説内のエピソードのどこまでが真実なのかも語られているのでファンならば必読の対談である。三十郎氏には初見だったが、この対談自体は2011年が初出のようである。熱心なファンならば既読かもしれない。色々と読んでいるつもりでも知らないことが多い。

単行本未収録小説は、『大草原の小さな家』『聖なる自動販売機の冒険』『金魚鉢をのぞく子ども』の三篇。

大草原の小さな家』は、『【新釈】走れメロス』の海外小説版の企画らしい。全連載停止事件の内のひとつなのだろうか。企画自体が生きているなら他のものも読んでみたい。『シャーロック・ホームズの凱旋』は方向的には近いか。

『聖なる自動販売機の冒険』は、取り留めのない妄想を文章にしたような意味不明さで愉快である。作中でミア・ファロー似の美人を「お宮さん」と名付けているのだが、ミア・ファローは『森見登美彦をつくった100作』にも登場している。グウィネス・パルトローミア・ファローミア・ワシコウスカがお好きらしく、彼女たちの主演映画ばかり観ていた時期があるらしい。ミア・ファローミア・ワシコウスカが好きな理由はよく分かる。ショートカットのよく似合う女優である。黒髪の乙女たちもそうであるように、登美彦氏はショートカット好きなのだろう。ミア・ファローと言えば『ローズマリーの赤ちゃん』のショートカット、ミア・ワシコウスカは『マップ・トゥ・ザ・スターズ』などでショートカットを披露している。ジュリアン・ムーアを殴り殺すシーンで返り血に染まる彼女の姿は美しい。あんな光景を観ながら逝けるのなら、三十郎氏は殺されても本望である。グウィネス・パルトローがショートカットになる映画は何かあったかなあ。

『金魚鉢をのぞく子ども』は『きつねのはなし』に連なる系譜の怪奇小説。久し振りに会うかつて仲の良かった同級生との微妙な距離感が、不気味な雰囲気づくりに一役買っている。

森見登美彦をつくった100作』では本に限らず映画やドラマも紹介されている。読書家とは言えない三十郎氏は「いろいろ読んでるなあ」と感心するものである。このリストのおかげで当面は読みたい本探しに苦労することはなくなりそうだ。ここには載っていないが、仕事場の写真に写っている『恐怖の作法:ホラー映画の技術』も気になった。

気になる『熱帯』の解説エッセイだが、登美彦氏は「書いて間もない小説についてアレコレ語るのは危険である」として詳しい言及を避けている。いつか本人の筆から語られる日が来るのを待ちたい。『熱帯』については西崎憲氏によるかなり突っ込んだ論考が掲載されているので、そちらが参考になるかもしれない。

山崎まどか氏による「乙女」についての論考は興味深かった。阿呆な男性読者にはない視点によるものである。ただ一点。「『恋文の技術』で主人公が恋い焦がれている三枝麻里子」という記述がある。主人公・守田一郎が恋い焦がれているのは伊吹夏子さんで、三枝麻里子に恋い焦がれているのはマシマロン小松崎だろう。連載版では違うみたいな事情でもあるのか、それとも単なるチェック漏れか。

登美彦氏は、解説エッセイを「さて、これからどうしたものか」と締めくくっている。三十郎氏は、「さあ、これからどうしてくれるんですか」と意気軒昂に氏の今後に期待しつつ、ぺんてるのエナージェルを買いに行こうと思うのであった。

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ダンボーは関係ないだろうと思うが、登美彦氏の仕事場の写真に載っていたので。D3200時代に愛用していたミニ三脚はアガサ号の重みに耐えきれなかった。