オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『熱帯』森見登美彦

概要

誰も読み終えたことのない小説『熱帯』の謎を巡る話。

感想

本書に登場する白石さんと同じく「一心不乱」派であった三十郎は、本は読んでいる間だけ、映画は観ている間だけその世界にいることができれば良いと思っていた。そんな三十郎が劣化を続ける自らの鳥頭を嘆いて記録をつけ始めたのが当ブログである。しかし一心不乱の読書姿勢は健在で、じっくりと楽しむつもりが気づけば朝の4時を迎えて読了していた。

書けない小説家の森見登美彦氏が「沈黙読書会」なる会合に参加し、そこで出会った白石さんが『熱帯』について語り始める。更に『熱帯』の謎を追う白石さんへ送られてきたノートの中身へと物語は展開し、といった具合に本書がモチーフにしている『千一夜物語』同様の入れ子構造となっている。本書をきっかけに『千一夜物語』に迂闊にも手を出し途中で挫折する予定の阿呆は三十郎以外にもいるはずだ。

森見登美彦氏のコミカルなエッセイのような内容で始まる本書が『熱帯』の謎に触れ始めると、『きつねのはなし』や『夜行』にも似たミステリアスな雰囲気を纏い始める。『熱帯』という存在の謎に読者はゾクゾクしながら先へ先へと進むことになる。

作品の冒頭で書けない小説家の森見登美彦氏が登場したのは、本書が森見登美彦氏の創作についての物語に他ならないからだろう。自らの(正確に言えば友人の)学生時代を描いたデビュー作『太陽の塔』から15年。書けない書けないと嘆きつつ、書くべきものは既に知っていると自らの作家生活を「創造の魔術」の糧にした。

このように読者が小説よりも一段高いところに構えて何らかの解釈を施すことに意味はないのかもしれない。本の方が一段高いところにあるならば、読者は紙面で踊らされているだけである。本作に登場する佐山尚一の『熱帯』はAmazonでは在庫切れとなっている。運良く見つけられた人がいたならば、その本はあなたよりも一段高いところに座している。

熱帯

熱帯

 
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